第二次世界大戦中の航空機用エンジンを調べると、日本の中島「栄」や「誉」、アメリカのプラット・アンド・ホイットニー、ライト社の星型エンジンなど、多くがロングストローク設計を採用していました。一方で、単純にストロークを短くしてボアを大きくすれば高回転化や小型化が可能だったのではないかという疑問も生じます。実際には当時の技術的制約や星型エンジン特有の事情がありました。
ロングストロークエンジンが主流だった理由
第二次世界大戦期の航空エンジンは、現在の自動車エンジンのような高回転型ではなく、比較的低い回転数で大出力を発揮することが求められていました。
プロペラには効率の良い回転数があり、あまり高回転にするとプロペラ先端が音速に近づいて効率が低下します。そのためエンジンも極端な高回転化を目指す必要がありませんでした。
ロングストローク化すると低回転域で大きなトルクを得やすく、当時の燃料品質や材料技術とも相性が良かったのです。
ショートストローク化すればエンジン直径は小さくなるのか
排気量を維持したままストロークを短くすると、その分だけボアを大きくする必要があります。
例えば排気量が同じ場合、ストロークを20%短縮するとボアはそれを補うために拡大しなければなりません。
星型エンジンではシリンダーが円周上に配置されるため、ボアが大きくなるとエンジン前面の直径も増加します。
| 設計変更 | 効果 | 課題 |
|---|---|---|
| ストローク短縮 | 高回転化しやすい | ボア拡大が必要 |
| ボア拡大 | 排気量維持 | 前面面積増加 |
| 大径化 | 吸排気に有利 | 空気抵抗増加 |
つまり、星型エンジンの場合はショートストローク化しても必ずしも小型化にはつながりません。
航空機にとってエンジン直径は重要だった
戦闘機では機首断面積が空気抵抗に大きく影響します。
特に星型エンジン搭載機では、エンジン前面の面積がそのまま抗力増加につながるため、設計者は直径の増大を嫌いました。
そのためボアをむやみに大きくするよりも、ある程度長いストロークを採用して排気量を確保する方が合理的だったのです。
誉エンジンが栄をベースに開発された理由
中島飛行機の誉エンジンは、栄エンジンの技術や生産設備を活用しながら18気筒化して大出力化したエンジンでした。
完全新設計のショートストロークエンジンを開発することも理論上は可能でしたが、戦時中は開発期間や量産体制が極めて重要でした。
既存技術の流用により部品や工作機械、生産ノウハウを活用できたため、実用化までの時間を短縮できました。
ショートストローク化には別の問題もあった
ショートストロークエンジンは高回転に向く一方で、当時の材料技術では大径ピストンや大型バルブの信頼性確保が難しい場合がありました。
また燃焼室が広くなることで燃焼効率やノッキング対策にも工夫が必要になります。
現在では高性能材料や精密加工技術によってショートストローク化が進んでいますが、1940年代の技術環境では必ずしも有利とは限りませんでした。
まとめ
第二次世界大戦期の航空用星型エンジンにロングストローク設計が多かったのは、低回転での高トルク特性、燃料や材料技術との適合性、そして機体の空気抵抗を抑える必要があったためです。
ショートストローク化しても排気量維持のためにはボアを大きくする必要があり、星型エンジンでは結果として直径増加につながることが少なくありませんでした。
誉エンジンが栄をベースとして開発された背景には、単なる性能だけでなく、生産性や開発期間といった戦時下特有の事情も大きく関係していたのです。


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