なぜ羅貫中は『三国志演義』の主人公を曹操ではなく劉備にしたのか?

中国史

『三国志演義』は、三国時代を描いた中国の古典文学ですが、そこで描かれる主人公がなぜ劉備であり、曹操ではないのかという問いは、しばしば議論の対象となります。この記事では、羅貫中が劉備を主人公に選んだ理由について考察します。

1. 三国志演義の背景とその創作目的

『三国志演義』は、歴史的事実に基づきながらも、羅貫中が創作した物語です。元々、三国時代は激しい戦争と権力闘争が繰り広げられた時代でしたが、羅貫中はこの歴史的背景を基に、登場人物に個性とドラマを持たせ、読者を引き込むような物語を作り上げました。

そのため、物語の主人公をどの人物にするかは非常に重要であり、物語にどのようなメッセージを込めるかによって、主人公の選択が大きく影響します。劉備が選ばれた理由は、単なる歴史的背景にとどまらず、物語のテーマと大きな関係があります。

2. 劉備の人間性と道徳的価値

劉備は、義理堅く、人々に優しく、正義感が強い人物として描かれています。この性格は、当時の中国社会において非常に重要視された美徳でした。彼の人物像は、民衆からの支持を集め、共感を呼び起こす力を持っていました。

一方で、曹操は冷徹で権力志向の強い人物として描かれ、彼の行動や判断は必ずしも道徳的に正しいとは限りません。羅貫中は、この対比を利用して、読者が劉備に感情移入しやすくし、物語に道徳的な側面を強調したかったと考えられます。

3. 義と正義を重んじた物語の構築

『三国志演義』は、義と正義というテーマが重要な柱となっています。劉備の物語は、彼の家族や仲間との絆、義理を大切にする姿勢が描かれ、これが読者に強い印象を与える要因となります。義理を重んじる劉備は、物語を通して正義を実現するために戦う人物として描かれ、主人公にふさわしい存在とされました。

一方、曹操は、優れた戦略家であり、冷徹な指導者でもありますが、その目的のために手段を選ばないことが多いため、道徳的な観点からは必ずしも理想的な主人公とは言えません。したがって、義理や正義を強調したい『三国志演義』において、劉備が選ばれるのは自然な流れだったのです。

4. 羅貫中の政治的意図と文化的背景

『三国志演義』が成立した時期には、元代後期の社会的背景も影響を与えています。元代はモンゴル帝国による支配下にあり、中国社会の伝統的な価値観が揺らいでいました。このような背景の中で、義と正義を重視した劉備の物語は、民衆にとって希望の象徴となるとともに、政治的にも強いメッセージを持つ物語として描かれたと考えられます。

また、劉備は民衆からの支持を受け、理想的な指導者として描かれることで、元代の支配者に対する潜在的な批判を含んでいる可能性もあります。このような背景から、劉備が主人公となることには、時代背景に合わせた意図が込められているのです。

まとめ

『三国志演義』において劉備が主人公として選ばれた理由は、彼の道徳的な価値観や義理堅い性格が物語のテーマに合致していたためです。また、曹操の冷徹な性格や手段を選ばない態度は、主人公にふさわしいとは言えませんでした。さらに、元代後期の社会的背景や政治的意図も、劉備を主人公として選ぶ要因となったと考えられます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました