「歴史上で最も人を殺した人は誰ですか?」という問いは、一見単純に見えて、実は非常に複雑な分析を必要とします。ここでは、国家的な大量殺害(ジェノサイド・飢饉・政治抑圧)に焦点をあて、「誰が」「どれだけ」「なぜ」最大の死者数を生んだ可能性があるかを整理します。
大量殺害(ジェノサイド・デモサイド)とは何か
まず、個人による殺害と国家権力による大量殺害を区別する必要があります。国家や体制による強制・飢餓・強制移動・処刑などが複合して生んだ死者数を研究する分野では「デモサイド(democide)」「国家殺害」といった用語が使われます。([参照]University of Hawaii Power Kills: Genocide and Mass Murder)
この観点から「最も人を殺した人物」は、戦場で個別に殺害した数ではなく、政策・体制・飢饉政策などによって生じた死者数の統計値で比較されることが多いです。
候補となるリーダーたちとその死者数
例えば、毛沢東(Mao Zedong)は「大躍進政策」による飢饉・強制移動などで数千万の死者を出した可能性があり、「45 百万~80 百万」という見積もりが提示されています。([参照]All That’s Interesting – Who Killed the Most People in History?)
また、ヨシフ・スターリン(Joseph Stalin)のソ連における大量処刑・飢餓政策・強制移住なども数千万の死者を引き起こしたとされ、「最大6 千万人近く」とも報告されています。([参照]同上資料)
最も殺した「個人」は誰か?個別殺害との違い
上記のような国家指導者は「政策実行による間接的な死者数」を生み出したため、「個人としてナイフを持って殺した数」ではありません。その点で、個人による最も多くの殺害数を示すのは難しいですが、国家権力を持った指導者が「最も人を殺した人物」に含まれる形になります。
そのため、「歴史上最も人を殺した人」という問いには、「国家レベルの大量殺害を主導した指導者」=候補と考えるのが現状の学術的な整理と言えます。([参照]同上)
死者数の推計値の不確実性とその背景
この種の比較には注意が必要です。統計資料の不完全さ、政策実行と自然災害の境界、戦争による死者の含み方など、「誰が何人殺したか」を正確に割り出すことは非常に難しい問題です。
たとえば、毛沢東の死者数推計には飢饉による自然死・政策死・混合死が含まれており、研究者間で数千万の幅があります。([参照]ChinaFile – Who Killed More: Hitler, Stalin or Mao?)
まとめ
「歴史上最も人を殺した人は誰か?」という問いに対し、現在の研究では、毛沢東またはスターリンが最有力候補とされています。ただし、「正確な人数」や「直接的な殺害」の観点で“一人の人物が殺した”という意味では、明確な証拠を伴う結論は存在しません。
つまり、「最も人を殺した人物」を断定する際には、死者数・因果関係・史料の信頼性といった複数の要素を慎重に考慮する必要があります。


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